キネマ・ジャングル

国・年代・ジャンルを問わず、心に響いた作品について呟いてみる映画ブログです。

わずか10分の映像マジック『ライフライン』

こんにちは、キーノです。

 

今回の作品は『ライフライン』

 

本作は『10ミニッツ・オールダー』というコンピレーション映画の内の1作品です。

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Credit:Amazon.co.jp

『10ミニッツ・オールダー』は世界中の巨匠監督15人が一堂に会した作品群で、テーマは「時間」で1作品10分と決められています。(※参加監督・作品名は最後に記載)

 

そしてジャームッシュ監督、ベルトルッチ監督、ゴダール監督と錚々たるメンバーが参加する中、ズバ抜けて傑作だったのがビクトル・エリセ監督『ライフライン』です。

 

エリセ監督というと寡作で有名ですが、『ミツバチのささやき』『エル・スール』『マルメロの陽光』とどれも間違いない傑作として名を残していますね。

 

その中でも僕は本作『ライフライン』がトップクラスに好きなのです。(ミツバチかライフライン)

 

中心から周辺に広がる不穏な空気

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Credit:youtube

本作は、スペインのとある田舎村に暮らす移民一家の日常のひとコマを描いたものです。

 

黒地バックに「LIFELINE」のタイトル、そこに重なる赤ん坊の泣き声で幕が上がります。

 

そこから始まる冒頭のシークエンスはこのような感じです。

 

赤ん坊の寝顔、聖母子の置物、側で眠る母親の順に画面が移る。

出産直後だろうか、母親の額にはじんわりと汗が滲んでいる。

再度赤ん坊に画面が移ると、産着のお腹辺りから血がジワーとゆっくり広がっていく。

 

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Credit:youtube

 

屋根裏に座る少年が、手首に描いた腕時計の絵に耳を当てる。

居間に移ると、赤ん坊の父親がソファで眠り、その手前の机上で祖父がソリティアに高じている。

祖母は赤ん坊のために名入りの前掛けをミシンで縫い、庭先には洗濯をする女性や車内で遊ぶ子供たちがいる。

 

時は1940年6月28日、新聞紙には「国境検閲所にナチスの旗上がる」との文字。

 

こうした家族の日常カットの間に赤ん坊のカットが挟まれます。

一家の中心(赤ん坊)周辺(周りの家族)が交互に入れ替わって映されるのです。

 

そして純白の赤ん坊の(さらに中心部とも言える)お腹からは不気味に血が広がっていきます。

 

つまりこれは一家の中心から不穏な空気が周囲の家族全体に浸透していく様を描いているのでしょう。

 

家族の間に漂う不安感は、地に落ちたリンゴの間を這う蛇や赤ん坊を覗きに来る黒猫、軍服姿で立つカカシなどに表れています。

 

ほんの10分の中でこれほど濃密な映像表現、やはり他を圧倒しています。

 

時を刻む日常の風景

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Credit:youtube

さらにこの10分に心地よさをもたらしているのが、日常風景から溢れるリズム音です。

 

自分で描いた腕時計に少年が耳を当てると時計のチクタク音が鳴り響きます。

 

カットが変わるとそれは老人がトンカチで鉄を打つリズミカルな音でした。

続いて草刈りをする音がシャクッシャクッ、水の張った洗面器に落ちる蛇口の水滴がポツンポツン。

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Credit:youtube

まるで日常の風景が時を刻んでいるかのようなのです。

 

シーンを進展させつつ、常に何かが時を打っているという仕掛け、そこから生まれる映像の濃密さ。

 

…エリセ監督、天才すぎます。

 

歴史と小市民の交差

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Credit:youtube

さらにさらに圧巻なのは、小さな農民一家の時間を描きながらも、そこに歴史の時間を入れ込んでいるということです。

 

家族の間を浸食する不穏な空気は、新聞の見出しが示すように世界大戦の影を意味します。

つまりごく平凡な農民一家の時間軸に、巨大な歴史の時間軸を交差させているのです。

 

ミクロの時間を描きつつ、マクロの世界に触れさせる神業。

しかもこれらすべてが何度も言いますがわずか10分間で語られるのです!

 

たった10分の映像マジック、エリセ監督の10分シリーズを見てみたいですが、もう撮らないんですかね〜。

 

10ミニッツ・オールダー』DVD詳細

 

2枚組(88分と102分)+特典DVDの計3枚。

特典DVDは、映画を観ている少年のアップを映して喜怒哀楽を見せるユニークな作品でした。

 

1枚目「人生のメビウス」

  • アキ・カウリスマキ『結婚は10分で決まる』
  • ビクトル・エリセ『ライフライン』
  • ヴェルナー・ヘルツォーク『失われた一万年』
  • ジム・ジャームッシュ『女優のブレイクタイム』
  • ヴィム・ヴェンダース『トローナからの12マイル』
  • スパイク・リー『ゴアvsブッシュ』
  • チェン・カイコー『夢幻百花』

 

2枚目「イデアの森」

  • ベルナルド・ベルトルッチ『水の寓話』
  • マイク・フィギス『時代×4』
  • イジー・メンツェル『老優の一瞬』
  • イシュトヴァン・サボー『10分後』
  • クレール・ドゥニ『ジャン=リュック・ナンシーとの対話』
  • フォルカー・シュレンドルフ『啓示されし者』
  • マイケル・ラドフォード『星に魅せられて』
  • ジャン=リュック・ゴダール『時間の闇の中で』